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東京高等裁判所 昭和62年(ラ)809号 決定 1988年2月19日

抗告人

株式会社住建ハウジング

右代表者代表取締役

白河秀夫

主文

原決定を取消す。

抗告人に対する本件売却を許さない。

理由

一本件抗告の趣旨は、主文同旨であり、抗告の理由の要旨は、「抗告人が、昭和六二年一一月一一日、東京地方裁判所において代金二五〇〇万円で売却許可決定を受けた原決定別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、買受人に引受けられるべき賃借権ないし売却により設定されたものとみなされる地上権はないものとして物件明細書が作成され、かつそれを前提とした評価に基づく最低売却価額で売却に付されたものであるが、抗告人のその後の調査によると、本件土地上に存し、本件競売の対象となっていない別紙物件目録(一)記載の各区分所有建物(以下「本件各建物」という。)のため法定地上権が成立するものと思料され、しかるときは抗告人の権利が害されることが明らかであり、本件売却許可決定には民事執行法七一条六号に該当する違法があるから、本件売却許可決定は取消されるべきである。」というものである。

二記録によれば、申立外清水恭は、本件土地及びその地上にある別紙物件目録(二)記載の建物(以下「旧建物」という。)を所有していたこと、同人は、昭和五四年五月二六日、同土地建物を共同担保として本件競売申立人西部信用金庫のために極度額一億円の根抵当権(昭和五四年五月二五日設定、債権の範囲 信用金庫取引、手形債権、小切手債権、債務者有限会社岡村工務店)の設定登記を了したこと、同土地建物は、昭和五四年五月二七日付売買を原因として、同年六月一四日、有限会社岡村工務店に所有権移転登記が経由されたこと、旧建物はその後取壊され、同年八月二〇日取毀を原因として昭和五五年八月一八日付で滅失登記がなされたこと、その後本件土地上に本件各建物が新築され、現存していること、本件各建物についてはいずれも別紙物件目録(一)記載のとおりの者を所有者として昭和五五年九月二日から九日ころまでの間に所有権保存登記(本件各建物のうち五の建物については仮処分登記をするための職権による同年九月一日付保存登記)がなされたこと、抗告人がその主張のとおり本件土地につき売却許可決定を受けたこと、がそれぞれ認められる。

三思うに、同一の所有者に属する土地と建物に抵当権が設定され、その後に右建物が滅失して新建物が再築された場合であっても、抵当権の実行により土地が売却されたときは、右土地につき再築後の建物のための法定地上権の成立を妨げないものであり、この理は再築した者がまったくの第三者であっても変わらないと解すべきである。蓋し、既に建物が存在することを前提にして設定された土地抵当権は土地から右建物のための地上権を控除した価値をもってその目的とするものであって、土地及び建物に共同抵当権が設定された場合であっても、土地又は建物の一方のみが競売に付されることがあり得る以上、土地に対する抵当権が法定地上権を控除した価値のみを把握していることに変わりはないのであり、したがって、建物が滅失した後再築された建物のために地上権の成立を認めても、その内容を再築前の建物を基準として定める限りなんら抵当権を侵害するものとはいえず、また、そうである限り、再築する者が抵当権設定者である必要は少しもないからである。

これを本件について見るに、本件競売申立債権者の抵当権(一番抵当権)設定時に本件土地及び旧建物が申立外清水の所有に属し、その後旧建物は滅失し、第三者により本件各建物が再築されたことは明らかであるから、前記のとおり本件土地につき旧建物を基準とした内容の法定地上権が成立するものと解するのが相当である(もっとも、本件各建物の区分所有者の取得した法定地上権の成立の態様、内容等については必ずしも一義的に明確ではないが、少なくとも買受人は、本件各建物所有者らに対して、建物を収去して土地を明渡すことを求めることはできないものと解される。)。そうとすれば、本件土地につきなんらの負担をも負わないことを前提にして作成された物件明細書及び同様の前提に立って決定された最低売却価額は相当でなく、これらの作成及び決定の手続に重大な誤りがあるというほかはなく、本件売却許可決定は取消されるべきである。

四よって、原決定を取消し、抗告人に対する本件売却を許さないものとして主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官野田宏 裁判官川波利明 裁判官米里秀也)

別紙物件目録(一)

一(一棟の建物の表示)(以下の二ないし七に共通)

所在 東京都練馬区東大泉六丁目五四八番地三

構造 鉄骨造陸屋根 三階建

床面積 一階98.59平方メートル二階88.23平方メートル 三階55.42平方メートル

(専有部分の表示)

家屋番号 東大泉六丁目五四八番三の一 鉄骨造一階建居宅 二階部分 31.77平方メートル 所有者 大泉建設株式会社

二(専有部分の表示)

家屋番号 東大泉六丁目五四八番三の二 鉄骨造一階建居宅 三階部分 24.76平方メートル 所有者 大泉建設株式会社

三(専有部分の表示)

家屋番号 東大泉六丁目五四八番三の三 鉄骨造一階建居宅 三階部分24.79平方メートル 所有者 大泉建設株式会社

四(専有部分の表示)

家屋番号 東大泉六丁目五四八番三の四 鉄骨造一階建居宅 二階部分 17.89平方メートル 所有者 丹清悟

五(専有部分の表示)

家屋番号 東大泉六丁目五四八番三の五 鉄骨造一階建居宅 二階部分 26.82平方メートル 所有者 有限会社岡村工務店

六(専有部分の表示)

家屋番号 東大泉六丁目五四八番三の六 鉄骨造一階建居宅 一階部分 47.79平方メートル 所有者 有限会社岡村工務店

七(専有部分の表示)

家屋番号 東大泉六丁目五四八番三の七 鉄骨造一階建居宅 一階部分47.15平方メートル 所有者 有限会社岡村工務店

別紙物件目録(二)

一 所在 東京都練馬区東大泉六丁目五四八番地三

家屋番号 五四八番三

構造 木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建

種類 居宅店舗

床面積 一階79.30平方メートル二階78.16平方メートル

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